僕と彼女が今の関係に至る経緯です。
「前兆」の続きとなります。
楽しい話ではないので、苦手な方は気を付けて(^^;)
僕も書いていて気が重いのですが、備忘録として始めたブログなので書き留めておこうと思います。
彼女が癌を告知された。
僕の親友である旦那は、進行度をはかるステージすら正確に把握していない。
泣きべそをかきながら酒を呷り続ける彼に詳細は聞けず、焦る気持ちが僕の酔いを醒ます。
僕が彼女を支えることを決意すると、その後は口が酸っぱくなるほど彼を叱咤激励し続けて夜が更けた。
翌日、さっそく彼女本人にLINEで連絡をとる。
すぐに来る返事。
やりとりを繰り返して全体像が見えてきた。
右乳房に癌。
ステージはⅠ~Ⅱa期。
1年も前からシコリがあることは気が付いており、健康診断の際に診てもらっていたが、つまむとよく動くため癌の心配はないと言われていたこと。
それがここに来て痛むようになり、地元の病院に赴いた結果、癌と確定されたこと。
そのままその病院の乳腺外科にかかっているが、担当医師による詳しい説明のないまま手術が2ヶ月も先に設定されたこと。
そして今まで当たり前だった毎日が壊れていくように感じ、夜眠れないこと。
文体は淡々としているが、随所から不安が滲み出ている。
気丈な人であることを知っているだけに、こっそり独りで泣いている彼女が透けて見える気がして胸が痛む。
彼女の病状を把握した僕は、実は少し安心していた。
客観的に言って早期発見が良かったのはもちろん。
さらに言えば少し奇跡の様な話になるんだけど、僕も彼女の役に立てることが確認できたから。
そこで僕にできることをそのまま行動に移した。
結局、偶然が幾重にも重なったおかげなのだが、数日で一線級の医師に診てもらえるまでに漕ぎ付けた。
僕が勧めるままに彼女は病院を替えた。
するとすぐに精神的に落ち着いた様子で、僕も一刻の安堵を味わう。
有能な担当医師から納得のいく説明を受け、彼女自身の要望を汲み取った上で治療方針が固められたとのこと。
患部は手術で摘出することになる。
選択肢は二つ。
乳房を温存するか、それとも全摘出するか。
日を開けずに連絡を取り合っていた僕にも相談が来た。
女性のシンボルとも言える、神聖な部位。
僕もできる限り色々と調べて助言する。
通常は温存で済ませる程度の進行度らしいのだが、彼女は後顧の憂いの少ない全摘出手術を選んだ。
子供だってまだ幼い。
少しでも再発率を下げたいということ。
手術の数日前に入院。
当初あった病気への恐怖は、病気を打ち負かそうとする強い意志に変わっている。
信頼する担当医師に身を預け、もう何も恐れることなく手術が受けられると言う。
頼もしい限りだ。
むしろ僕の方が手術日が近付くにつれてソワソワしだした。
一日中彼女の事が頭から離れない。
できることなら替わってやりたい。
知らぬ間に涙目になっている自分に気が付く。
しかしそんな事はおくびにも出さない。
せっかく彼女が戦う気になっているんだ。
力強い言葉を選んでメッセージをやりとりする。
一方、彼女の旦那がどこか逃げ腰でいるのには腹が立った。
一緒に酒を飲む分にはイイ奴なんだけど…。
あんな風な、弱気な姿を見せてはならない。
僕が彼女を支えると決めたのだから。
手術当日は、もう何も手に付かなかった。
僕も外科手術の経験があるんだけど、麻酔が切れた後が地獄のように痛かったっけ…。
彼女は乳房を切除するんだ。
痛いのは身体だけではない…。
手術翌日。
無事なのかどうか。
いやいや無事に決まっている。
煩悶を繰り返している僕に、彼女からLINEで自撮りの写真が送られてきた。
…!
笑顔でピースサインだと!?
全身の力が抜けて噴き出してしまった。
おかしな言い方なのは分かっているけど元気そうで良かったよ、と返信。
落ち着いてから改めて彼女の写真を見る。
よく知っていたこと。
知っていたはずのこと。
この時、改めて認識することになる。
彼女は美しい。
偶然なのだが、この日は彼女の誕生日。
1年後の誕生日は、2人きりでのお祝いもすることになるのだが、この時はまだそんな未来は想像もしていない。